日産とホンダのブランディングの違い

2003/2/27

前号では、日産の車種名を示す「MARCH」「SKYLINE」「PRIMERA」などの文字が、
同じ書体で統一されていることについて述べました。
(ただし「FAIRLADY Z」の文字は、スピード感を表現するためか、やや斜めに傾いています)

今回は、日産のように文字の書体を統一した場合と、しない場合とで、
受け手(顧客)の脳の中に、どのように情報が記憶され、
それがブランドイメージにどう影響を及ばすかについてお話します。


「MARCH」と「PRIMERA」の文字を見比べると、「M」「A」「R」の文字が共通して含まれているので、
同じ書体であることがお分かりいただけると思います。


これに対して、ホンダの「Fit」と「HR−V」の文字は、それぞれまったく違うデザイン処理が施されています。

日産とホンダのどちらの文字が、より印象に残るかというと、
大半の人はホンダの方だとお答えになるのではないでしょうか。
では、日産はどうしてホンダのように車種ごとに文字をデザインせず、
あえて控えめな書体を使って全車種の文字を統一しているのでしょう?

その狙いは、マーチの市場投入によって生みだすことができた驚きを、
「MARCH」という記憶の引出しに収めてもらうのではなく、
「NISSAN」の引出しに収めてもらいたかったからです。
(記憶の引出しについては、file.2を参照してください)
つまり、マーチの驚きも、プリメーラの驚きも、フェアレディZの驚きも、
すべて「NISSAN」の驚きとして受けとめてもらえるよう、
日産はあえて文字のデザイン性を抑え、統一感を出したわけです。
一台一台の車の名声よりも、「NISSAN」の名声を上げたい。
そう願う日産の思いは、車体の前後につけられた円形のNISSANマークが、
以前よりも大きく立体的にデザインされ直された点、
さらにはCMの最後に「シフト・ザ・フューチャー ニッサン」の音声とともに
NISSANマークが挿入されるようになった点にも顕著に表われています。
日産とホンダの戦略の違いを図で表せば、ざっと下のような感じになります。



文字のデザイン性を控え、NISSANマークをより印象づけることにより、脳の中に「NISSAN」の引き出しが作られ、そこに各車の驚きが貯蓄されていく構造。
結果として、「NISSAN」のブランドイメージが向上していく。



「Fit」「HR-V」の文字がシンボリックにデザインされているため、
ホンダマークと同レベルで「Fit」「HR−V」の引き出しが脳の中に作られ、
ほぼ一対一対応で各車の驚きが貯蓄されていく構造。
結果として、車種そのもののブランドイメージが向上していく。


これで文字の書体を統一した場合と、しない場合とで、受け手(顧客)の脳に驚きの情報がどのように収まり、
結果としてブランドイメージがどのように違ってくるかが、お分かりいただけたと思います。

ここで誤解のないようにしておきたいのですが、私はここで日産のブランド戦略とホンダのブランド戦略を比較して、どちらがより優れているかを説明しているのではありません。
日産には日産、ホンダにはホンダのお家の事情があり、
それによってブランド戦略の方向性も変わってくるからです。

日産という企業が、「NISSAN」ブランドの向上に重きを置いた戦略をとっているのは、
皆さんもよくご存知のように、数年前までの日産の業績が倒産を懸念されるほど悪化し、
「NISSAN」のブランドイメージが著しく低下していたからにほかなりません。
倒産の可能性が高まれば、商品の買い控えが起きます。
いま買った日産車を何年間か乗って買い換えようとしたとき、もしメーカーが倒産していたら、
下取り価格が大幅に下がってしまうリスクをともなうからです。
いくら性能の高い車を開発できたとしても、NISSANブランドに対する信用を回復できなければ、
なかなか販売には結びつかない。
そのような状況に立たされていたからこそ、
日産は「NISSAN」ブランドの向上に重きを置いた戦略をとったわけです。
一方で、ホンダは業績好調で、「HONDA」ブランドに対する信頼も厚く、
各車種ごとのブランドイメージの向上に力を注げるわけです。

仮に日産が、NISSANブランドの危機的な状況をよく踏まえず、
ホンダと同じようなブランド戦略をとっていたら、今ごろどうなっていたでしょうか?
どれだけ商品やサービスの質を改善できていたとしても、
ブランド戦略(受け手の脳の中に商品やサービスの驚きをどのような構造で記憶させるか)の方向性を
誤っていれば、これほど短期間に日産の業績は回復していなかったのではないかと、私は感じています。

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ブランディング・コーチ 矢沢大輔
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