ブランディングのための「驚き」のつくり方3(JR東海の例)

2002/8/7

驚きをつくる2つめの方法は、お客の行動に垣間見える「潜在的ニーズ」に着目し、そこから驚きをつくりだしていきます。

例として、JR東海をとりあげたいと思います。
JR東海の売り物は、いうまでもなく東海道新幹線です。
切符を売り、お客を目的地まで運べば、JR東海としての仕事は一応完了します。
しかし、ここでJR東海の「そうだ、京都行こう」のCMを思い出してみてください。
CMの中で、新幹線という商品の利便性や快適性といったものが語られているでしょうか?
何ひとつ語られていませんよね。
CMに出てくるのは、京都の風景やお寺で、新幹線の走行シーンは最後にほんの少し映し出されるだけ。
なぜ、JR東海は商品そのものの魅力を伝えず、京都の風景やお寺の魅力を宣伝しているのでしょう?
その答えは、お客が新幹線に乗るのは、あくまで京都に行くための手段。
お客が本当に求めているのは「京都の旅を楽しむこと」だからです。

JR東海が売っているものは「新幹線」。
お客が買おうとしているのは「新幹線を降りたってから始まる京都体験」。
ここにタイムラグがあります。
このタイムラグによって、多くの企業は勘違いしてしまうんですね。
お客はモノやサービスを提供した時にお金を支払ってくれるので、モノやサービスそのものを買ってくれているんだと。
それで、モノやサービスの向上ばかりに意識が行ってしまい、その質の向上に行き詰まってしまうわけです。

最終的にお客は何を得たいがために、その商品なりサービスを買っているのか?
それを見抜くことができれば、JR東海のように、まだまだ新たな驚き(京都の知られざる魅力)を提供でき、ひいては商品(新幹線)そのものの利用価値を高められるのです。

もう一つ例をあげます。
私は、近所のドトールにノートパソコンを持ち込み、いまこの原稿を書いています。
家では、なかなか原稿を書く気分になれず、環境の変化を求め、コーヒーを飲みながら原稿を書こうとドトールにやってきました。
ところが、この店には電源がありません。
パソコンのバッテリーが切れしだい、原稿は書けなくなります。
周りを見渡すと、テーブルでパソコンを叩いているのは私だけではありません。
アメリカには、こういう私のようなニーズ(コーヒーを飲みながら原稿を書きたい)に応えてくれるお店が既に存在しています。
スターバックスが経営する「サーカディア」というお店で、テーブルにはパソコン接続用のデータポートがあり、ノートパソコンのレンタル、フロッピーディスクの販売、さらにプレゼンテーション用のモニターをそなえた貸し会議室まで用意されているそうです。

「コーヒーショップは人がくつろぐためにあるもの」。
そういう常識にとらわれると、お客の潜在的ニーズを見過ごし、サーカディアのようなショップはおそらく生まれなかったでしょう。
お客の行動を見ていて、「最近、パソコンを持ち込むお客さんが増えたな」、そこに気づけるかどうかがポイントになるわけです。

こういう潜在的ニーズは、お客にアンケート調査を行なっても、なかなか浮かび上がってはきません。
飲食店に行くと、ときどきアンケートの協力を依頼されますが、たいていの場合、「料理の味はどうでしたか?」「サービスはどうでしたか?」という質問事項に、「よかった」「まあまあ」「よくない」というような回答が設けられています。
たとえ、意見や要望を自由に書き込める欄があったとしても、こうしたありきたりの質問から収集できる情報は、現状の商品やサービスに対する不満、もしくはその改善策です。
アンケートで「接客の態度がよくない」とわかって、それを改めたところで、そんなことはサービス業にとってあたりまえの行為であり、ブランドになるほどの驚きにはつながりません。

お客は、企業側が一番知りたい「潜在的ニーズ」を言葉にして教えてはくれません。
それはお客自身が、自分のニーズをはっきり認識していないからです。
行動に現れてはいても、意識の面で自覚しきれていない。
この原稿を書いている私自身、パソコンを持って自らコーヒーショップに行っているにもかかわらず、サーカディアの存在を知るまで、コーヒーショップに「オフィス的ニーズ」があることを認識できていませんでした。
つまり、実物を見せられるなり、指摘されるなりするまで、お客は自分の中にあった「潜在的ニーズ」を言葉にして表現できないのです。

ですから、驚きをつくるためには、お客の行動をよく観察して、最終的に何を求めて商品なりサービスを買っているのかを見抜くほかに手はないのです。
机のまえに座って、アンケート用紙とニラメッコしたところで、お客が本当に求めている新しいニーズを見つけることはできないのです。
自ら現場に立って、お客の行動を観察し、その行動の裏に隠された「潜在的ニーズ」を見つけ出せれば、まだまだブランドになるための驚きを生みだせるはずです。

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ブランディング・コーチ 矢沢大輔
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